伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。たっぷり転載していきます。
 
 
 

第47回 青空に白く光る

地には赤トンボ。
初秋のころとは違って大群ではない。草にとまって翅を光らせているのが一匹。すいすいと畑の上を舞うのが一匹。その間をちらちら行き交うのはシジミチョウ。
エゴノキの枯れ枝には小さな小さな鳥。お腹が柿色、黒い翼の肩あたりに白い紋。ジョウビタキだ。今年もやってきた。こちらを見て、全身全霊でチチ、チチ、と鳴いている。
熟れきった渋柿には忙しいメジロの群れ。赤く輝く実にとまって、嬉しそうについばんでいる。
そして、見上げると真っ青な空。なんて深い、なんて広い青なんだろう。何百回、何千回見ても、うっとりする。さいわいなことに、人間が打ち上げた宇宙のゴミ、ガラクタはぜんぜん見えない。

かすかにエンジンの唸りが聞こえる。畑仕事の手を止めて、音より前方を探す。いた。ミニチュアみたいな飛行機が海の上から私の頭上へと飛んでくる。真っ白に光っているから旅客機だ。音よりずっと先を行って、たちまちうちの屋根に隠れる。
どうやらこれがひとつの航路らしく、同じコースを飛んでいる。そういえば出張仕事の帰りに、羽田に向かって飛んでいて、わわわ、ここで降ろしてくれ、と思ったことがあった。伊豆半島、東伊豆の地形がはっきり見えたからだ。羽田で降ろされると、またえんえん電車に乗らなければならない。
飛行機に乗るのは別段、怖くない。同世代のなかでは早くに飛行機を経験しているだろう、と思う。60年ほど昔、伊丹空港から羽田空港への定期航路が開かれた。もちろんプロペラ機の時代だ。
そのイベントを企画した広告代理店は、大阪で名の出始めていた子役を「一日スチュワーデス」に、大阪のベテラン漫才師横山エンタツさんを「一日機長」にして、搭乗させることにした。
小学5年生だった私は、別アツラエの小さなスチュワーデスの制服、制帽、スカーフなどを身に着けて、同じく機長の正装をしたエンタツさんと並んで、客席に向かって出発のアナウンスを読んだものだ。シゴトはそれだけ。大半の時間は座席に座って、伊丹・羽田を往復した。
少し酔って眠かったほかは、別段、不快はなかった。その後、頻繁に利用したけれど、酔いもせず怖い目に合ったこともない。

でもやがて飛行機はきらいになった。荷物検査がどんどん煩わしくなったからだ。乗るまでに手間暇がかかる。それに乗っている間も、ああしろこうしろと指図がうるさい。だからめったに乗らない。青い空を行く白い機体を眺めるのは好きだけれども。
一時、青空にまったく機体を見ない日々があった。それがある時からまた見るようになり、昨今、特に日曜などは、うるさいほど見える。新型コロナ対策とゴートゥ政策の影響に違いない。機影が増えると罹患者数も激増した。60年前には想像もしなかった世界だ。
晴れた空の深さと広がりは、いっこうに変わらないが。

伊豆新聞に連載中 その597 (2020年12月16日掲載)


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