伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。今年からたっぷり転載していきます。
 
 
 

第7回 「仮釈放」の友

ヨネちゃんからメールがきた。
近々「仮釈放」になる、またいつ「収監」されるかわからないけれど、しばし「シャバ」に遊ぶ自由がある、ランチをご一緒しませんか?
そりゃ私は収監中やら仮釈中の友人知人にはこと欠かない。けれどもヨネちゃんは、おそらく75歳の今日まで、監獄のご厄介になったことはないと思う。
こういう冗談を言うひとなのだ。ミタテ・ジョークとでもいおうか、状況をなにかに見立てて、自分や周囲をそれに当てはめて話す。自分の名字を足軽風にもじって「米助」と称し、愛妻を「御正室様」、私を「長峰城の姫君」などと呼ぶ。城が大好きで日本史に詳しいので、つい見立てが時代劇になるらしい。
高校の先生をしていたと聞くが、日本史を教えていたのだろうか。 
ありがたくも「姫」の役を私がもらうのは、ヨネちゃんのトラウマ。ずっとチナチストだったそうだ。そういうひとを見ていると、目の前のばあさんを透視して若き日のアイドルが見えているようで、こちらとしてはトクである。ああ、タレントやっててよかったな、こんなに喜んでもらえたんだから、と自分の人生を肯定するよすがになる。

知り合ったのは2013年。場所は箱根にある「神奈川県立生命の星・地球博物館」。館のイベントの一端で、ダイビングの大師匠、海中写真家の益田一とその魚類研究について講演をした。終わったところで聴衆のひとりがやってきて、「ここの学芸員をしていた者です。私も伊東に住んでいます」と自己紹介した。それがヨネちゃん。
私も原発に反対なので、なにか伊東でできないかと考えている、なにかあったら教えてほしい、というのが用件だった。その頃、ちょうど地元の友人と「原子力いいんかい?@伊東」を始めようとしていたところだったので、お誘いした。私たちは仲間になった。
ご自身の口から、重いガンにかかった、と聞いたのは4年ほど前だ。というのも、「末期であと3月」と聞いてから、もう4年。医者も呆れるしぶとさを発揮している。それでもいつしか「監獄」を出たり入ったりが始まり、このたびはもはやテはない、というので、新しい抗ガン剤のいわば実験台になるために「収監」されていたわけ。

数時間、共に遊んで、ほとほと感心した。常のように自分で運転して迎えにきてくれた。足元はおぼつかないし、髪は薄くなったし、体も変形しているが、そのありようは、知り合ったころと少しも変わらない。むろん愚痴はない。と言って無理して明るく闘病、の気配も無い。とにかく平常なのである。
大病との苦闘のまっただなかで、たとえ瞬時でも、こう平常でいられるなんて、すごい!
またランチに誘ってね、ええ必ず、と手を振りあって別れた。見送って庭に入ると、今年も芽吹いた福寿草の花が群れている。地上での命は短いが、精一杯、楽しんでいるように見える。なんだかヨネちゃんを見る気がした。

伊豆新聞に連載中 その557 (2020年2月19日掲載)


「庭のフクジュソウ」

第6回 子抱き地蔵
第5回 マスクが消えた?!
第4回 確率論的津波評価、なぜ?
第3回 「次世代」なるもの
第2回 道玄坂の日の丸 
第1回 新年につきごあいさつをば

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