伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。今年からたっぷり転載していきます。
 
 
 

第6回 子抱き地蔵

うは、なんだこれ?!
まずびっくり。でも、毎年、そこに何が出るか知っていたから、すぐにわかりましたけどね。
正体はハッカクレンの新芽(写真)。
「これ、とても珍しい野草なのよ。前から欲しかったの。それが駅前の花屋にあったんよ」
買ってきたばかりの鉢を前に、わくわくしながら母がそう言った時には、祖母はもう他界していた。私はまだ東京に居て、しばしば伊豆の母を訪ねていた。
そうか、あれからもう20年余りたったのだな。

鉢には、真っ直ぐな茎のてっぺんに天狗の団扇みたいな形をした大きな葉を持つ草が植わっていた。植物に興味のないひとにとっては地味なタダの葉っぱだろう。私にしても母の植物好きを受け継いではいたものの、東京暮らしのシゴト人間だったので、特段の感動はなかった。
「ほら、葉に切れ込みがあって8つのツノになってるでしょ。だから八角連、ハッカクレンというの」
 ひまさえあれば植物図鑑の類を眺めている母は、なかなか詳しい。いくつか種類がある、これはタイワンハッカクレン、
「台湾の林の中に生えているそうだから、半日陰の場所がいいね」 
私も手伝ってよさそうな木陰に植えた。母の想い出には楽しくないものも多いが、植物につられて出てくる母は、いつも楽しい。

私が初めてその花を見たのは、その翌年だったか、3年ほどあとだったか。とにかく草木をじっくり見る余裕を持った初夏のころ。ひと目見て仰天した。
太い茎が二股に分かれて、それぞれのてっぺんに大きな八角の葉が開いているのだが、その二股の部分から、細い花茎が無数と言っていいほど垂れ下がり、それぞれの先っちょに、やや楕円のゴルフボール大の花が着いている。花は下向きだし地面に近いので、花弁の内部を見るのは苦労だ。ただその不可思議な形体と、目にも鮮やかなワインレッドの花色に驚くばかりだった。

そして先週、この新芽にまた驚いたわけだ。ハッカクレンは母の死後も毎年芽吹いて株の数を増した。それなのにこの新芽に気づかなかったとは!
どうやらハッカクレンの新芽には2種類ある。1本か2本の葉だけの新芽と、そしてこのお地蔵さんみたいな新芽。葉だけの新芽はおそらく花をつけない。お地蔵さんのほうは、なんとすでに2つのすぼんだ葉の間にいくつもの蕾を抱えている。まるで子抱き地蔵だ。この薄緑の子たちがやがてワインレッドに染まって花房となる。葉だけの株がお地蔵さんに育つまでには何年かかかるに違いない。それが今、株の数も一段と増え、子抱き地蔵の株も増えたので、私の散漫な気を引いたのだろう。
おそらく母はこのお地蔵さんを知っていた。生きていたら得意になって、この奇妙な新芽の解説をしたことだろう。

伊豆新聞に連載中 その556(2020年2月12日掲載)


「お地蔵さん?!」

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