伊東市在住、おんな組組員・伊豆半島人を名乗る中山千夏さんの、身辺四方八方雑記!
伊豆新聞のシニア・ページに、2009年から毎週一回、連載されている長寿コラムを、同新聞のご協力で、おんな組用にアレンジ。今年からたっぷり転載していきます。
 
 
 

第4回 確率論的津波評価、なぜ?

むかあし、歴史学者の故・羽仁五郎さんから聞いたんですけどね、毎日、新聞の第一面を読んだらコレと思う記事を赤鉛筆で囲むんですって。コレ、というのは将来にとってよくない話。そうすると社会の方向がよく見えてくる、なんでもそういうお話だった。
なるほど、紙面が赤くなればなるほど世の中あぶないわけで。さすが学者は新聞の読み方もちがう、と感心した。
きみたちもやってごらん、とアドバイスされたけれど、とほほ、今にいたるもやってません。どうやら私には、イヤな話に耐えよう、という覇気が不足している。本紙みたいにのんびりした話題が多い第一面ならいいけど、ほかはもう赤鉛筆だらけになりそうな記事ばかりなんだもの。特にここ10年ほどは。

それに赤鉛筆で囲むべきかどうか迷う記事もあるから、難しい。先日も、これ、羽仁さんならどう分類したろうか、というトップ記事があった。大見出し〈津波3メートル以上 高確率〉〈南海トラフ地震 伊豆から九州で〉横書きに〈国の地震本部〉。(1月25日付の朝日)
これ、いい話?悪い話? 珍しくじっくり読んでみた。〈政府の地震調査研究推進本部〉が〈南海トラフ地震による津波が今後30年以内に沿岸を襲う確率を初めて発表した〉そうだ。解説によると、2012年に政府が発表した〈津波想定〉は〈東日本大震災を踏まえ、科学的に起こりうる最大級の地震〉を想定したもの。それによって防災対策基準が大きく引き上げられた。
しかし〈一方で、高すぎる想定に「なにをしても無駄」とのあきらめも生じた〉。最大級ではない3〜10メートルの津波でも深刻な被害がありうる。そこで、そんな津波が今後30年以内に起こりうる確率を、〈市区町村別にはじき出し〉て、非常に高い確率から低い確率まで3段階に分けて発表したとのこと。これを称して〈確率論的津波評価〉というのだそうだ。

はてな。そもそも「なにをしても無駄」の気分がこの社会に生じたのは、あの大津波に驚いて防災基準を大きく引き上げたせいだったろうか。違う。大津波によって引き起こされたフクシマ原発事故に震撼したせいだった。
原子力を安全に扱う技術は今も無く、たとえ地震や津波の来る確率がゼロだとしても、テロが原発施設を襲う確率や近隣国から原発目がけてミサイルが飛んでくる確率、作業担当者がミスをする確率も無視できないとみんなが知ったからだ。大量の核廃棄物の安全な処理方法もないままに、政府は原発をやめられないと知ったからだ。津波被害なら元気を出せばなんとか乗り越えられる。でも原発事故の被害は文字通り致命的だと知ったから、この社会は諦めと刹那主義に陥っている。
それなのに近年、原発事故の文字すらも、マスコミから消えている。ううむ、イヤな話に耐える覇気がないのは、どうやら私だけではないらしい。

伊豆新聞に連載中 その554 (2020年1月29日掲載)


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