あのすば・・・・ 第8回

未来を切り開けない自民党の数字主義

田中優子(在日横浜人)

 柳沢厚生労働相の「女性は子供を産む機械」発言で、補正予算案の議会が混乱している。辞任するのかしないのか。私は、辞任しないで、自民党は彼を抱え込んだまま腐ればいいと思っている。理由は以下のとおりだ。
 「女性に対してつい失礼な発言をした」と謝っていたが、これは間違っている。彼は本音を言ったのだ。その本音は女性に対するのみならず、日本人全体に対する失礼な本音である。しかも彼の発想(価値観)は、安倍政権と自民党が皆で共有しているもので、自民党の本音中の本音だ。間違いでも失言でもない。本質なのである。

 今の政権には、数字で日本の将来ビジョンを作りあげ、その数字に生身の人間をあてはめようというもくろみがある。少子化対策というものがそれだ。従来の経済成長神話から抜け出せない自民党の人々は、数が多いことが豊かさの指標だと思い込み、日本を工場のようなものだと思っている。そこには大量生産のための機械が立ち並び、次々と商品を作っている。彼らは女性がその機械のように見える。作ってくれさえすりゃ、ほかのめんどうなことを何もやらなくても、経済は成長し続け自民党は安泰! ということなのだ。彼らは変わりたくないし、何も変えたくない。いや、さらに大きな利益を得て、息子達に政権を譲りたいのだろう。柳沢厚生労働相と石原都知事の発想は、同じ価値観に基づいている。失言はなくならず、また誰かがおこなうに違いない。

 日本人の人口減少は避けようがない。少子化対策とやらがうまくいっても減少する、と予測されている。ならば、人口減少に見合った社会が必要になる。人口減少にはメリットがたくさんある。あらゆる混雑が緩和され、都市の人口密度も環境汚染も少なくなる。教師がその待遇にこだわらなければ、教師ひとりあたりの生徒・学生数は格段と減り、教育効果は高くなる。地球の環境危機にいくぶんかは貢献することができる。

 問題は、高齢者の割合が高くなることと、高齢化社会へ前代未聞のスピードで近づいている、というこの2点である。すぐにできることとしては、元気な高齢者ができるだけ長く喜びをもって働き、若年層の負担を少しでも減らす社会を作ることだろう。次にできることは、女性たちが幾度出産をしても(あるいはしなくとも)、働き続けられる社会を作ることだろう。それをしながら人口減少社会への過程を踏み、社会を縮小しながら新しい安定に着地するのだ。この変化にはどうしても、価値観の変化がともなっている必要がある。

 また「教師が待遇にこだわらなければいい教育ができるようになる」と言ったように、人々が少しずつ、「待遇」の中身について考えを変えてゆかねばならない。
 金銭より時間に価値があること、豊かさとは物が多いことではなく、喜びが多いということ、喜びとは買い物で生まれるのではなく関わりや成長の中に発見できることなど、価値観がそのように変わってゆかなければ、幸福な縮小社会は作れない。戦争で経済拡張をすることは、このようなビジョンとは正反対の方向にある。

 自民党の本質である拡大主義、成長主義、米国追随は、これからの社会に大きなマイナスになる。戦乱と環境破壊と崩壊の原因になる。失礼ていどではなく、命取りなのだ。
 しかし柳沢さん、聞いたところによると、今の不妊症とセックスレスの原因の多くは、男性の精子の減少だそうです。こんどは、「男性は子供を作る機械。修理が必要だ!」と発言してみてはどうでしょう。