38回  民主党はアメリカの非軍事化に手を貸せるか?

田中優子(在日横浜人)

自分が生きている間に、政権交代が起こるとは思わなかった。何も変わりそうもない、と思っていたのだ。それほどまでに政治は退廃していた。
しかし、具体的なビジョンを持っている人であればあるほど、「ようやく大きな一歩を踏み出した」と思うと同時に、「本当に民主党は社会を変えるのか」と、どこか疑っている。民主党が自民党といかにセンスが異なるか、マニフェストを見ればわかる。にもかかわらずあまり変わらないかも知れない、という理由を、『週刊金曜日』9月4日号に書いた。
『金曜日』では、環境と農業に絞ってマニフェストを比較検討したのだが、その限りで言うと、やはり民主党は、社民党や共産党の出している大胆な方向転換には及ばない。それを「現実的(だから実現可能)な姿勢」ととらえるか、「結局変わらない」ととらえるかは、1年ほど経ってみないとわからない。

驚くことがあった。それはアメリカの反応だ。私は選挙前に書いたその『金曜日』の原稿で「自由貿易協定案を提示したり、おもいやり予算に言及しないことなどを見ると、民主党はかなりアメリカ寄りで、政権交代の裏には米国の意思が働いているのではないか、と思える」と書いた。ところが、アメリカのマスコミは「反米だ」と騒いでいる。私からは「アメリカ寄り」に見え、アメリカからは「反米」に見えるのはなぜだろうか。
 おそらく沖縄密約や「おもいやり予算」を米国側は当然のことと考え、それを謎だとは思わないからである。選挙後、鳩山論文をめぐって、「従属、とは何のことだ?」とカメラの前でアメリカ政府の高官は言った。沖縄駐留も沖縄密約もおもいやり予算も、すべて「日本国民の意思」だと思っていたからだろう。選挙によって米国への従属を選ぶ人間はいない(と思う。いるかな?……)。選挙で自民党を選び続けたのだから、沖縄駐留も沖縄密約もおもいやり予算も、日本国民は「従属」とは考えておらず、喜んで、自発的に、この30年間アメリカに3兆円もさしあげて来たし、沖縄県民を筆頭に自分を犠牲にして土地を提供し、核の持ち込みさえ歓迎している、と(アメリカが)考えても不思議ではない。「それがどうして急に?」と思ったであろう。

これって何かに似ている。中高年の離婚だ。夫は妻が「喜んで、自発的に」自分と結婚し続けている、と考えている。自分がいなければ妻は生きて行かれない、と思いこむ。収入が減っても妻は自分の働きで助けてくれたし、夜中まで起きて待っていて、細々と世話をしてくれたし、それは全て愛情の表現だと。それが突然、「本当は我慢していた。もういや!」となればびっくりだろう。妻もある時期までは、自分の収入はあるものの、夫がいなければ生活が成り立たないような不安があった。しかしそれは本当か?と考え始めたら、簡単に幻想は消え去る。妻が離婚して自立しようとしたとき、あることに気づく。依存していたのは妻の方ではなく夫の方だと。
米国の慌てぶりは、自分の依存に気づきはじめた焦燥のように見える。いつまでも軍事で世界中に依存し、国内の極貧の若者たちの兵力に依存するのではなく、基地を無くし核を廃絶すれば、それでいいではないか。米国の非軍事化に協力することこそ、本当の「思いやり」だ。 


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