28回  11月8日は法政大学多摩校舎へ

田中優子(在日横浜人)

「あのすば」で、自分の出る催し物のお知らせをまったくしてこなかったな、と思う。講演だけでなく、出した本の宣伝もしてこなかった。そのことに気づいて『カムイ伝講義』について先月は書いたのだが、「宣伝・広報」という機能に突然目覚めた私は、こんどは間近に迫ったシンポジウムのお知らせをしたくなった。テーマは「テレビ・ドキュメンタリーとノンフィクション」である。

11月8日(土)の13時から、法政大学多摩校舎のB301という大教室で、この「テレビ・ドキュメンタリーとノンフィクション」というシンポジウムを開くことになった。法政大学多摩校舎は、法政大学ホームページhttp://www.hosei.ac.jp/ の「キャンパス・交通案内──多摩キャンパス」で確認できる。基調講演はご存じ『週刊金曜日』社長の佐高信さん、NHKでドキュメンタリーを作ってきた桜井均さんである。そしてドキュメンタリーの世界では知る人ぞ知る、熊本放送の村上雅通さんをまじえ、佐高さん、桜井さん、村上さん、テレビ・ドキュメンタリーの専門家である同僚の小林直樹、そして私が討議をおこなう。

佐高信と私と小林直樹は、この準備も兼ねて今年8月、水俣に取材に行った。その記録は2回にわたって『週刊金曜日』に掲載されることになっている。ひとつの理由は村上雅通さんに会うためであった。村上さんは『水俣病・空白の病像』『記者たちの水俣病』で知られるテレビ・ドキュメンタリーの突出した制作者で、その村上さんが水俣を案内してくださることになったからである。私たちはこの時、佐高さんの紹介で、原田正純さんにもおめにかかることができた。もうひとつの理由は、私が18歳のときに「ノンフィクション」というジャンルに初めて衝撃を受けた『苦海浄土』のその土地を、この眼で一度は見たかったらである。

基調講演を引き受けてくれた佐高信さんは『失言恐慌』など企業ノンフィクションも書いているが、さらに注目すべきは『現代を読む──100冊のノンフィクション』(岩波新書)という名著だ。これが第一級の書評本なのだ。1冊について新書2ページ分の見開きを使っているに過ぎないが、そこに浮かび上がるのは本の内容を超えて、個々の作者そのものである。書評を読んで胸がしめつけられる、という経験はめったにないが、そういう書評だ。ノンフィクションはときに書き手の人生を変えてしまう。それほど危険であり、社会と真っ向から向き合うものである。その姿勢を共有していなければ書けない書評である。

当日は村上雅通さん制作の『封印』を上映する。村上さんにはもうひとつ『流転』という傑作もある。ノンフィクションがどのように事実や社会と向き合っているか、テレビ・ドキュメンタリーがどのように現場で戦っているか、担っている人々の状況を知り、支える人を少しでも増やしたい。今そうしなければ、マスコミを乗り越えて我々に事実を伝えてくれるこの仕事、危険でやっかいなこの仕事の担い手は、途絶えてしまう。