2017年2月6日

北海道大学アイヌ・先住民研究センター
准教授 落合 研一 様

アイヌ民族団体・有志連絡会
旭川アイヌ協議会、
原住、アイヌ民族の権利を取り戻すウコ・チャランケの会、
関東ウタリ会、東京アイヌ協会、ペウレ・ウタリの会、
アイヌ・ラマット実行委員会、
先住民族とともに人権・共生・未来を考える会、
宇梶静江、小川隆吉、弥永健一、平山裕人
 

再度の抗議並びに申し入れ

 私たちは、あなたに昨年12月20日付「抗議並びに申し入れ」を送付して、「平成28年度アイヌ文化普及啓発セミナー」(2016年7月28日/主催・アイヌ文化振興・研究推進機構)においてあなたが主張した誤った歴史認識とアイヌ民族差別を糾し、その誤りを認めてアイヌ民族に謝罪し、その差別主張を撤回することを申し入れました。そして、その申し入れに対する回答期限を本年1月15日として、文書回答を行うことを求めました。しかるに、あなたは回答期限を過ぎても回答を行わず、また一切の連絡すらよこしていません。その不誠実な姿勢は、センターの社会的信用を失墜させるものですし、問題を長引かせて拡大する愚かな判断ですが、同時に、私たちの存在を否定してアイヌ民族差別に居直る、差別の上塗りです。(私たちからは1月18・19・20日にあなたに電話折衝を試みましたが、その電話も通じませんでした。)強く抗議するとともに、再度、その不誠実な姿勢を改めて2月22日を回答期限として文書回答を行うことを申し入れます。あなたが、そうした差別主張を維持したまま流布し、アイヌ研究者としての社会的認知を広げることを私たちは許しません。

 私たちはアイヌ政策研究の前提として、アイヌ民族に対する正しい歴史認識を培うことが必要不可欠であると確信しています。それは、アイヌ民族が直面する課題(差別)が、近代天皇制国家による一方的なアイヌモシリ併合に端を発する歴史的構造的な差別の結果であるからです。少なくともアイヌ政策を語る研究者は、真っ先にそうした植民地政策・同化政策の下でどのような権利侵害や人権蹂躙があったのか、その歴史的被害と犠牲の真実を克明に追究し認識するべきだと考えます。そうした作業の上でこそ、きちんとその「歴史的不正義」を正すことができ、アイヌ民族と和人が対等・平等で人間らしい信頼関係で切り結ばれることに資するアイヌ政策研究を積み上げることができることでしょう。

 あなたは講演の中で、「コシャマインの乱」「シャクシャインの乱」などと「乱」という用語を使って、アイヌ民族を暴徒のごとく表現し、「(コシャマインの戦いは)武田信弘のおかげで鎮圧できたといわれている」「その当時は残念ながら北海道といえる地域までは支配できていなかった」と抑圧者の立場に立つ発言も多々散見されますが、あなたは上記のような歴史的なアイヌ政策(植民地・同化政策)の非を一貫して認めず、戸籍へのアイヌ民族の編入や新たな土地制度の強要などに関しては、アイヌ民族と和人を平等に扱っている旨の主張を行って正当化し、あろうことかアイヌ民族が土地を奪われた事実に関して、アイヌ民族の「理解」が欠如し、自ら「選択」を誤った結果であると歴史を偽造し、差別主張を行っています。また戦後も維持されてきた北海道旧土人保護法に関しても「社会保障法的な役割もセットになっている」と高く評価し、その差別と同化を強いる本質への批判は一言も行わずに不問にしています。
そうした主張は、アイヌ民族に対する植民地支配の非を一度も認めず、いまもアイヌ民族を「先住民族の権利に関する国連宣言」における先住民族(権利主体)として認めていない政府の姿勢と軌を一にするものです。
 実際に、あなたを指導してきた常本照樹センター長の関わった「有識者懇談会報告書」において、「報告書を取りまとめた常本照樹教授によれば、(補償問題は)意識的に回避したとのことである」「(民族の集団的権利を認めないのは)集団的権利を否定するという日本政府の公式的立場の踏襲とのことである(常本教授)」(吉田邦彦北大教授・「ノモス 第28号」2011年6月発行)という指摘があります。そういう意味では、センターのアイヌ政策研究は日本政府の立場に奉仕する研究姿勢が支配し、今回の問題は落合准教授個人に限らない問題ではないか、私たちは強く懸念しています。

 すでにあなたの引き起こした問題に対して、私たちアイヌ民族団体・有志連絡会を含めて多くのアイヌ民族団体や市民団体、また知識人らの取り組みが開始されており、あなたが不誠実な態度で差別の上塗りをする毎に集会や申し入れが重ねられるなど取り組みが社会的に拡大しています。あなたが、こうした取り組みを無視し、どんなに居直ろうとも、あなたのアイヌ民族を貶める差別講演の事実を消せる者は誰もおらず問題は拡大するでしょう。この問題の解決は、あなたが私たちをはじめ抗議の声にきちんと向き合い、誠実に対応する中からでしか始まりません。最初に述べたように、1日も早く私たちの「抗議並びに申し入れ」への文書回答を行い、問題解決に一歩踏み出すことを強く求めるとともに、あなたの差別の上塗りが続く限り、あなたの主張が広がることを阻むべく、私たちの抗議の声も社会的に広げてゆくことを申し添えます。

以 上