第21回 働くご縁がございました。

夏がまた来る。流れ星に願いをする間もなく、14年が過ぎ・・・。
「まじめで優しい父ちゃんと、この世で出会えただけで幸せだと。あの世に逝ったとて、会えんよな」ってようやく思えます。
私たちは神を信じることも、仏様の教えを真剣に学ぶこともなかった。
ゆえにできた小さな悟りと生きる覚悟です。

夫がご遺体に変わった瞬間「どんな形で見送られますか?」と、即答を求められ、えっ!私が決めるん?「とっとりあえず」という言い方もふとどきなんですが。
「お寺には二人でよく行ってました.から仏教で。のちのちの仏事が簡単なものなら、なおありがたいです」と言うてもた。いや、ほんとは、もっと雑な言い方だったと思います(__)

「ロウソクも危ないし使わんとき。仏事の袋も買いに行かんでもいい。ただ、お花だけはなるべく欠かさんでね。自分の心が潤うから」と略式自家仏事を許すファンキーなご住職の元、45歳からの夫がいない専業主婦生活も、じゅうぶんに悲しめました。

3回忌も済ませ、そうこうしていたある日、テレビの画面で東日本大震災を知った。
この時の住職の言葉も、私の人生の駒を一歩進めた。
「この人たちには泣く場所すらない。毎日泣いてきたあんたなら、その辛さがわかるんとちゃうか。被災した障害者を支援する団体で仕事か…。とりあえずやってみたら。人に寄り添う資格なんて誰にもない。逆にそんなもん振りかざして、人の心に入ったらあかん。心は触ったらあかんねん。弱いあんたのままで充分。これも何かのご縁や思うで」
そうかー。私は、人目を気にせず長い時間、悲しむことも泣くことも許されてきたんや。

とはいえ、働くいうても?
ついこないだまで私、死んだように生きてたやん。いや死んだふりしてただけやったかも( ´∀` ) だって「なにもしたくない」「何も食べたくない」と言いながらも、映像家や作家のタマゴちゃんたちと「100円と1万のワイン比べ」「韓国焼肉ツアー」なんていうのはしてたもの。
結婚や就職や留学で、遊べなくなったタマゴちゃんたちに手伝ってもらって、震災の翌年、地震などで被災した障害者を支援する団体「ゆめ風基金」に入職しました。
「千夏さん・一つだけ言っときますね。資格無し未経験可能というのは、そういうのがなくても仕事はできる人という意味です。仕事ができない千夏さんは、これには該当しません。
でも、千夏さんはゆめ風基金と契約しました。ので、ここから先は千夏さんがねをあげない限り大丈夫です。ぐちならいつでも聞きます」アルパイ経験豊富なタマゴちゃんたちの言葉もほほえみの真意も、退職して3年になる今なら、よくわかります。おいおい今頃か?

体重も12キロ減・眉間にもしわが入り、「ちょっと苦労した」熟女風に仕上がった。白いブラウスを着た50歳の社会人に
「おかん・ええ感じやん。もうひと花いけるで」ってあんな何言うとるん?
母は、あなたの学費を稼ぎに行くの。母の背中よーく見ときなさいやー。

 



第20回『働かない人生からの…』(2021年7月8日)
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第7回 ファーストキスもラストキスもご用心あれ
(2020年11月30日)
第6回 母と暮らせば その3
(2020年11月16日)
第5回 母と暮せば その2(2020年11月2日)
第4回 母と暮せば(2020年10月15日)
第3回 悲しみごとも よろこび事(2020年10月1日)
第2回 この夏は
(2020年9月14日)
第1回 初めまして(2020年8月28日)

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福本千夏の本

障害マストゴーオン!
イースト・プレス

結婚、子育てと平凡で幸せに暮らしていたが、夫が癌になり死別する。絶望の中、主婦業を捨て就職するが・・・。
息子をはじめ、たくさんの人たちに支えられ、葛藤し、見つけた希望は・・・!?
脳性まひ者・福本千夏が挑む、革命的エッセイ! 

『千夏ちゃんが行く』
飛鳥新社

福本千夏さんの初めての本。
処女作とは思えないクオリティに編集さんが驚いたとか。
泣いて、笑って、恋をして。
一途、前向きに突っ走る!
清冽な生き方が胸を打つ、なにわのオカン、再生の物語。


 

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