第11回 乙女の経験5 鏡越しのオチンチン
福祉学科女子の登竜門にオチンチン問題があった。実習やアルバイト先で私たちはそれぞれのオチンチンに出会う。老人ホームで施設で児童園でそれを目にし扱う。傾いた体で大人の体を支えることは厳しい私も、アイコンタクトや唇の色で体の状態を表すこどもと対面した。当時、(いやきっと今も)動けぬ体を持つ者の命を支える環境は人為的にも設備的にもかなり厳しかった。
「君が排せつ物を扱うと、かえってややこしいことになるだろうしね。君は障害児より健常児のところで学んだ方がいいと思いますよ。その方がお互いの心が動く。ちょうどキャンプもあるし」とゼミの担当教授は翌年の実習先を児童相談所に決めた。
あの頃の夏休み期間の児童相談所は様々なこどもがいた。実習生にはこどもの家庭環境や諸事情は明かされない。ただ24時間こどもたちと2週間を過ごすミッション。「私たち職員は帰れる場所も休みもある。きつくなったらいつでも言ってね」ここでの要は体力よりもメンタルだとすぐに知った。こどもと程よい距離でいるには、まず自分の心に風をしょっちゅう通すことが大事だ。私は夕方必ず一人で落ちていく太陽を眺めた。
一日に何度も「おしっこ」と言う子やすれ違いざまに「嫌い」と囁く子。でも、私のビブラートがかった声や操り人形のような体の動きについては「なんで」と問う子はいなかった。お口が達者のあきちゃんは、いつも私を気にかけてくれた。で、ある朝、隣で寝ていた彼女からおねしょの犯人にされてしまった。こどもに嘘やごまかしは通用しないが、こどものそれらは良しとしよう!えーい。旅の恥は掻き捨てだぃ。私は黙って布団を干した。その日も大きな真っ赤な夕日をみた。あきちゃんの小さな手が、私の曲がった小さな左手に絡んだ。
実習最後の日「あきちゃんは養女で‥。でも、できないはずの実子ができた途端、たびたび虐待を受けるようになった。今回も自分で連絡してきて…」と児童相談所の職員は口ごもった。「ちーちゃん・バイバイって人の名前を叫んだのは初めて。こどもの時間が過ごせたのかな」私も?!です。
この夏は友人と障害者施設のキャンプにも参加した。♪キャンプだほいほいほい♪と薪を囲んでお気に入りの男子と仲良くなるという邪な気持ちなんて、バスに乗り込んだ途端にぶっ飛んだ。こっここは体力勝負。福祉学科女子のテンションに合わせていては身が持たないと確実にできそうなことを率先してした。今でいうアザトク(笑)これが登竜門になるなんて思いもせずに。
この日はキャンプファイヤー中、宿泊ホテルにいる人を見て回る。体調変化があればキャンプ長の看護師に伝える役だった。ノックをして扉を開けると、そこにはトイレで辛うじて立位を保っている青年。彼の緊迫した表情と動かない手を目の前に「ごめん。下げるで・見てへんで」とスウェットパンツに手をかけた。二つ年下の私に似た骨格のお顔と鏡越しのオチンチンは心にしまった。目をつぶり後ろを向いたばっかりにka ga miのトリック。