第9回 乙女の経験3 女らしい字とは何ぞや(・・?
女子高校生の胸の中にはいろいろなものがぎっしり詰まっている。キャビキャビ ルンルン どよよよよーん (・・? イライラ ムカムカ
高校生は、もうこどもでもない、まだおとなでもない体と心で毎日起きる出来事に一人立ち向かっていく。勇者だ!
教師の何気ない言葉に傷つく。友達の本心に驚く。公平を装うが裏側にある大人の都合をみる。私も一人で静かに戦う勇者だったんかな。
特徴的な身体(不)能力の私は、高校受験のときに、世の中が薄汚れていることも希望に満ちていることも知った。寄付金で不合格の不がとれる高校もある。全校あげて寄宿生活も学校生活も応援しますという高校もある。
いち早く家を出たかったが、ひとまず大人の力が加わらない平等な受験で公立高校に入った。
校則より厳しい母の服装チェックをすり抜け、家を出たらギャハっ!
放課後のバンド活動に備えて、たまにはエネルギー温存することも大事(・・?。ある日の6時間目「先生、裏の公園でブランコに揺られてきます。心配ご無用」と教室から出て行こうとした。「こらこら、そないに堂々と言われたら俺やって困る。せめて保健室ぐらいにしとけ」「具合が悪かったら教室にいます。私も元気やから…」「アッハハ。さっき、そっと出て行ったあいつらもお前も欠席や。ええな。けど、ブランコか?きっと思うよりたのしないで」
そして、私はこの歴史・副担任の悲しい表情をもう一度見ることになる。この時は歴史を絡めた部落問題や人権の授業だった。私は教壇に一番近い席で舟をこぐどころか、体を机に完全沈没させてしまった。さっきの授業は体育で3キロマラソン。喫煙者と思われる3分の1がリタイアした中、ビザの斜塔の体と座っていない首を揺らしながら、一番最後にゴールした。みんなお休みモードなのに「お前だけは、聞いといてほしかった」と悲しいお顔で去られても、私やって困る。「なんで私だけなん」と口を尖らせた。人が等しく生きる権利なんてこの国ではどの時代もなかった。それはこの身が嫌というほど知っている。
中学までは完全スルーだったマラソンも水泳も遠足も英語の朗読もミシンも化学の実験も修学旅行も全部制覇した。存分に高校生活を満喫し、大学の推薦も決まり、卒業までの日々を惜しむこの日、事件は起きた。
倫理学の教師は生徒の特質はおろか名前さえ覚えていなかった。2学期の期末試験に「女らしい字をかけ」と細い筆体で書かれた答案用紙が返された。「先生方。わかりやすい字を書けなら納得いきます。女らしい字ってどんな字なんですか」気づくと一人で職員室になだれ込み泣いていた。
教師たちは取りつくすきすべもなく、なんの説得も説教もしなかった。3学期・こいつに倫理学を語る資格なしと授業に一度も出ず。テストは98点。
卒業式の日、担任は「あのときなー3年間好きだったお前のリンゴスター(痴漢を撃退してくれたバンドメイト)に相談してん」と言った。で?
「大学の推薦ぼしゃっても、あいつが一人で戦うって決めたことやろ。俺ら黙って見守るしか」と言ったらしい。