第８回 乙女の経験２ カイロと痴漢
初恋はいとこのひろちゃん。自転車でふたり乗りして途中で落っこちて気づかれなくても、遊園地のコーヒーカップでぐるぐる振り回されても、ひろちゃんと遊ぶのが大好きだった。そういえば、今お世話になっている鍼灸師さん。松潤風のお顔も「大丈夫・大丈夫」っていつも笑うところもひろちゃん！だ。
小学校から高校までの恋のお相手もおめめのばっちりした優しい男の子だったな。私が恋をすると打ち明けるわけではないのに、周りにも相手にも知れる。どんだけルンルンしたお顔やったんやろ（笑）
中学3年間思い続けた子とは出席番号が近く、卒業式には隣になった。嬉しくて胸があつっ(・・?えっ胸ちゃうな。お尻があつっああっい。「いくら恥ずかしくても、あんなにもぞもぞせんでも」と級友。「ちゃうねん。お尻があつかってん」とやっと取り出せたカイロに式終了の教室は爆笑。「千夏は最後までおもろいな。高校の文化祭には呼ぶからな」ちなつ！？最初で最後一度だけ呼び捨てにされたことか嬉しくてその日は眠れなかった。
高校生になった。ピサの斜塔のキャラなんて埋もれるくらいカラーあふれるクラスメート達。教室で初めてしゃべったのは大柄の真っ赤な髪の男の人だった。彼がこの学校を仕切る大ボスだとか、入学式で出会わなかったのは2年前に式を済ませているからだとか、彼が教室に来なくなってしばらくしてから知った。人参さん・・・。って呼んでもいいって言ってくれたのに。
通学電車でも友達ができた。始発駅から二つ目なのに毎朝満員だった。乗り込むのにも一苦労。揺れる車内で足をつけ20分。一瞬でも気を抜くとカバンが手から離れる。「千夏、カバン流れてきたでー。大丈夫やから降りろ」と声がかかる。そんな様子を見ていたのか、ある日「お嬢ちゃん、こちらにどうぞ」とスーツ姿の男が手すりのある壁際の位置を譲ってくれた。「ご親切にどうも」と言いかけたその時、えっうううそー。スカートの上を手が！？「安心して」と笑みを加える。ここいつ痴漢やん。なに人の尻触っとんねん。なにが安心してやねん。が、あまりにとっさのことに声が出せず、力の限り足を踏み体をよじらせた。腹立つわー。足が不自由な子に親切にしていますというシチュエーションを作って、仮に暴かれたとしても、あんな子に痴漢するわけないと言い逃れる気だ。このやり口は汚すぎる。
電車から降りると「ちかん」とやっと呟けた。あくる日、通学メイトたちは車内でそのおっさんを囲った。電車が揺れるたびに思いっきり足を踏み、肘うちをかました。降りる時には「おっさん痴漢はあかんわ。俺らみとってん。それにあいつ番長のマブダチやで。おっさんきいつけや」と静かな決め台詞。翌日からおっさんは電車で見かけなくなった。
「大人はなー。特にあんな紳士面したやつはいろいろ顔を変えるからなー。かますんやったら思い切りいかんと、なんかあったらいつでも言えよ。俺らが守ったる」
翌週から、私はキーボード持参で、彼らとビートルズのコピーバンドをする。
懐かしの?イエスタディ♪
