第337回 植物と人とのつきあいの歴史もまた

佐古和枝(在日山陰人)

2月に、もう桜ですか!植物は、季節の変化をいち早く教えてくれますね。日本に四季があって良かった、と思います。四季どころか、毎月変化していることを、月に1度の植物観察「むきばんだを歩く会」で実感しています。この会は、山の上にある妻木晩田ムラの弥生人たちが、どんな植物に囲まれていて、それらの植物がどんなふうに生活に利用できたのかを、少しでも追体験したくて、始めました。もちろん、いま妻木晩田にはえてる植物は、弥生時代の植生そのままではないのですが、それでも、自然な景色のなかで見るのと違って、遺跡で植物をみると、つい「何かに使える木かな」と考えてしまうから、おもしろいです。今年で15年めとなりますが、いまなお飽きずに楽しく歩いています。

 

植物利用といえば、まずは食べられるかどうか。妻晩田でいえば、クリ、コナラ、アカガシなどの堅果類。それから、ムベ、アケビ、クワの実、ナツハゼの実、ナガバモミジイチゴなど、なかなか美味です。タラ、コシアブラ、ワラビ、ゼンマイ、ツクシなどの山菜系もあります。食べられるというだけなら、けっこう種類は多いのですが、たとえばイチゴばっかりたらふく食べても、力が出ないでしょう? やはり、カロリーが高く腹もちのよい炭水化物が欲しい。となると、堅果類か、クズやワラビの根っこ、ムカゴ、ヤマイモくらいかな。種類はあまり多くないです。人類が農耕を始めるのは、穀物という炭水化物が欲しかったんだということに合点がいきます。
むきばんだムラでも米粒や稲の穂摘具が出土しているので、麓の水田に通って農作業をしていたのでしょう。

 

多くの植物が使えるのが草木染め。ちょうど今の時期しかできないのが、桜の草木染めです。まさに桜色っていうみごとなピンク色に染まるのですが、使う材料は、花びらではなく、花が咲く前の枝なのです。桜の枝をグツグツ煮ると、ワインのような濃い赤い液体になる!桜は、人間たちが気づかぬうちから春の気配を感じて、あのピンクの花を咲かせるための色を、せっせと枝に蓄えているのですね。ちょっと感動。

木器や木製品を作るのに使われる木も、いろいろあります。むきばんだムラでは、木製品はあまりみつかっていませんが、同じ頃、鳥取市の青谷上寺地遺跡は、低湿地の遺跡なので有機質がよく保存されていて、約13,000点の木製の道具類と約10,000点の木製容器が出土しています。全国的にみても、とびぬけて多い出土数です。

 

木器の樹種をみると、スギ、サクラ、カヤ、イヌガヤ、ヤマグワ、ケヤキ、サクラ鏃、サカキなど、いろんな木を使っていますが、桶や盤などの大きな器は、加工しやすいスギが圧倒的。それに対して、高坏や椀など特別に精緻な細工をした容器は、ヤマグワが大半を占めています。ヤマグワは、堅くて加工はしにくいのですが、木肌に光沢がある。仕上がりが美しくなるから、頑張って削ったのですね。漆塗りの器には、木目の薄い散孔材のサクラ属・モクレン属が使われました。木製品では、鍬や鋤などの農具や斧の柄は、堅いカシの木が大半を占めています。穂摘具は強靭なヤマグワ、舟はスギが主流です。妻木晩田の山にはえているムラサキシキブは、花も実もその名のように優雅で、鑑賞用としか見ていなかったのですが、他県の遺跡では漁具の柄や矢柄、フォーク形の木製品の出土例があると教わりました。
このように弥生人たちは、それぞれの木の性質をよく知っていて、用途に応じて木を選び、使い分けていることがわかります。植物の知識があると、遺跡歩きの楽しさが倍増します。
妻木晩田遺跡は、たんに歴史を学ぶ場ではなく、植物と人間のつきあい方の歴史を学ぶ場でもあると、保存が決まった時から言い続けています。植物の世界は、なかなか奥が深い。「むきばんだを歩く会」は、まだまだ続きそうです。

追伸:前回、千夏さんが紹介してくれた『大学による盗骨』は、それなりに知っているつもりで読み始めましたが、「はじめに」から、知らなかったことの連続で、目を剥きました。愕然としました。自分の不勉強を恥じ入るばかりです。まだ読み始めたところなので、いずれまた。