第316回 盛りマツゲだって!

中山千夏(在日伊豆半島人)

サコちゃん!
あ、サコちゃんは大学生と付き合ってるからなあ、知ってるかもだなあ。
私、つい先週、知ったのよ、「盛りマツゲ」!

伊豆新聞という伊豆地域一円に出している地方紙があってね、それに週一回、コラム書いてるの。
ええっと、フクシマ事故の何年か前からやっているので・・・今、PCのフォルダ調べたら、2009年の冒頭に1回目の原稿を書いている。だから・・・げっっっ、もう10年目!?

ちなみに第一回はこんなこと書いてる。

 新年早々、私事で失礼します。ただいま還暦まっただなか。子年だから、数えではすでに一歳越えたのだが。昨年、自分が、「村の船頭さん」と同い年、とわかった時には、少々あわてた。「今年六〇のおじいさん」と歌詞にある。「おばあさん」をどう生きるか、なんて考えたことがない。思えば、すでに始まっている老化現象のあれこれは、初めての体験ばかりで、いやおうなく生きかたの再考を迫られている感がある。さすがの私も三日ばかり思案した。そしてわかった。
 暦がめぐって還ったのだから、私は子どもに戻ればいい。子どもの構えをとればいいのだ。そう目星をつけて、では、子ども時代の最大の特色は、と考えた。それはなにより無計画、明日を思い患わないことだった。
 むろん子どもなりに予定はあった。眠くても起きて学校へ行くとか、午後には楽屋入りせねばならぬとか(子役だったからね)。しかし、勉強も舞台も、未来のためにするわけではなくて、いま、すべきことだからやっていた。朝、目覚めると、さあ、今日はなにして遊ぼうか、とだけ考えた。そして、とにかく、いま、やりたいことを、いま、やろうとした。「明日にしなさい」などとおとなに遮られると、口を尖らせて言った。「いまやらなくちゃ、明日、死んじゃうかもしれないじゃないの」。おとなは笑った・・・。
 それが笑い話ではなくなっている。いや、それは本来、人生の真実だろう。子どもの場合、明日死ぬ確立が低いから冗談に聞こえるだけなのだ。確立が高くなったいま、私は子ども時代よりいっそう子どものように、「ただいま」を生きればいい。そうだ、そうだ!
 なんのことはない、今日までの基本路線を肯定しただけだ。しかし、こう決めたら、老年という初体験を生きる度胸がついた。そんな時、伊豆新聞に、身辺雑記を連載することになったのだ。当然、題は「ただいま雑記」。読者ご同輩、どうぞよろしく。
 さて、ただいま、伊豆の山中に住んでいる。目覚めて居間に出てゆくと、天気がいい日は、窓の額縁いっぱいに豊かな緑、眼下に伊東港、はるかに続く海原がある。さあ、今日はなにして遊ぼうか。原稿書きか、先日やった伊豆急全線ウォークの写真でスライドショーを作るか、海に潜ってもいいな、いや? たしか今日は仕事で東京へいくはずだったぞ、おお、電車のなかで本を読もう!

とまあ、そんな調子の日々なのですが、そもそも、どうして伊東の住人になったかというと・・・それは次回のお楽しみっ。

ははは、このあと「次回のお楽しみっ」でつなげる工夫でずっと書いてて、自分もその工夫を楽しんでたんだけど、11年に3.11原発事故。当時、とてもそんなノンキな調子では書けなくなって、この工夫はやめた。それから、ああ、もう7年か・・・
10年一昔。1回目の原稿、これ、ちょっとした歴史資料だぞ!

それはともかく話は先週のこと。
伊東では何年か前から「まがり雛」というイベントをやってるの。観光アテコミ行事ね。稲取の「つるし雛」を真似たんだろうけど、知人を誘うのは気が引ける。正直言って、雛の展示がしょぼい。お金もかけず市民の熱もなく無理やりやる祭の典型ですな。
いろんなところで展示がある。今年は中心商店街、キネマ通りアーケードにも展示があった。
近いから買い物がてら見にいった。大きな雛壇が4つぐらいあった。
雛人形を見比べる機会なんかなかなかないから、じろじろ。それはそれでおもしろい。なるほど、一口に雛人形といっても、いろんな顔があるのね。
それをコラムに書いたの。あ、言い忘れたけど、このコラム、私が撮った写真つき。この回の写真は、これ。

よく見ると、目の下に長いマツゲが描いてあるでしょ。内裏雛の女雛4〜5体のうち、たったひとつを除いて、全部、こうなってる。昔は雛にマツゲは描かなかったんじゃないか?現代の化粧やアニメの影響かしらん、みたいなことを書いた。それについた見出しがこれ!

雛人形も盛りマツゲ

いつも見出しつけてくれる担当の編集者(若い女性(*^^*))によると、今、化粧で濃く作ったマツゲを盛りマツゲと言うんだって! なるほど、軽く検索したら、この言葉を使うリンクがずらずら! 一番上はこんなの。
〈フッサフサの盛りマツゲ!ボリュームマスカラのおすすめ・・・つけまつげより簡単!ボリュームタイプのマスカラで目力アップ!たっぷり盛れるボリュームタイプのマスカラを使ってみませんか?優秀マスカラをご紹介します。〉
まいったね。元アイドルとしては、シロウトさんがツケマツゲするのだってびっくりだったのに。学生なんかが付け毛、いやエクステするのに腰抜かしてたのに。
またその編集者によると、付け毛などで結い上げた豪勢な髪型を写真なんかで見ると、「いい盛りしてるね」などと言うそうな。
Wikipediaに「盛りマツゲ」は無いようだが、「盛り髪」の項目はあって、また驚く。キャバクラ嬢の大きな髪型ファッションがギャルに移ったそうな。
そういえば昔から、銀座のお姉さんや歌手の髪はいい盛りしてたよ。クロウトのファッションが町娘に飛び火するのも室町あたりから知られていることだし。

ファッションこそ、何百年何千年も仕掛けが変わらないものなのかもしれないね。