第277回 社員アベくんをどうする?

中山千夏(在日伊豆半島人)

突然ですが、我が自治会の話、きいて。

伊東の私が住んでいるところは、1972年ごろに開発された分譲地でね、開発した業者が管理するはずだったんだけど、分譲開始間もなく、倒産してしまった。それがあとのことなどお構いなしの倒産だったもので、分譲地を買っていたひとたちは、やむなく自治会を作って、業者の不始末に対応したり、のちのちの分譲地の管理をしなければならなくなった。
なにしろ、駅から車で5分とはいえ、標高230メートルの人里離れた地域で、都市ガスも水道もいまだにひけていない(そのかわり、共有の井戸水がおいしい^^)。曲がりなりにも住宅地として維持していくには、所有者が力を合わせて管理するしかなかったわけ。
私はその最初からの自治会員。というか、74年に家を建てて、母と祖母が住んだんだけど、そのころは自治会内に2軒しか家がなかった(笑)。

それからの自治会の紆余曲折は、まるで一国の歴史みたいだよ。
初期は、会長を委任された熱心な一会員の独裁状態。みんな、やってくれるひとがいるだけでありがたくって任せっきりだったんだけど、当然のことに、その会員の独断専横がひどくなり、隣近所に反発が生じ、政変が起きた。古代の集落でも、こういうことがあったんじゃないかなあ、と思った。

そこで仕方なく、(当時は多忙だったので母に任せっきりだった)私も乗り出し、それまで何も法律が無かったのを知って、憲法と行政法(自治会規約と細則)を制定した。
これで、誰が役員を担当しても、大過ないようになった。
近代化したわけね(笑)。

その後もいろいろあり、法改正もあり。
我が分譲地の問題は、同じ所有者でも、土地のみ所有の会員(転売狙いで買ったのがバブル崩壊で無駄になった、というケースが多い)、土地と家屋の所有者、そのなかでも常住の会員(私ら)、別荘使用の会員、があることなの。
その違いによって、分譲地の管理への必要度、熱意、要望が違う。どうでもいいと捨ててるひとから、私らみたいに住んでいるのだから切実、というひとまでいろいろある。
だから、ひとしなみに会員として同じ義務・権利を持たせるのは難しい。
つまり、全会員平等の権利を持つ議会制民主主義ではマズイのよ。
誰にマズイかといえば、家を持っているひとたちに、とてもマズイ。最低、井戸は共有で確保しなければならないし、道路の整備補修も協力してやる必要がある。

そこで最終的に到達したところ。
まず、土地のみ所有者の会費を土地家屋所有者よりぐんと安くした。つまり税額を不平等にした。
そのうえで、住民(別荘も含む)が「住民会」を組織して、互選で会長・会計・副会長・会計監査を選び(任期は二年)、適宜開会し、会計ほか重要事項を採決し、結果を全会員に報せる。もちろん全会員出席の総会にかけるべき大事がいくつか定めてある。

こういうのなんていうのか知らないけど、今とっさに思うに「住民主義合議制」とでも言おうか。
現地の住民こそ地域管理の主役、土地転がしはもってのほか、土地のみ所有者は住民予備軍、という思想に基づいている。

うまくいってます。
で、役員経験を積むうちに、思った。
これって利害の一致する連中(住民)が運営を完全に把握しているわけでしょ。
だからうまくいく。
はてさて、政権もこういうシステムでやりたいだろうなあ、と。

行政は、何をどう決めてもすべての有権者が満足するようにはできない。
これも自治会運営でイヤというほど知った。文句だけ言って、総会の招集にはいっこう出てこないひとも少なくないしね。
為政者から見れば、国民や県民市民、みんなこう見えるでしょう。
だから、為政者と利害の一致するひとだけで運営できたら、さぞやりやすいだろうなあ、と夢想するに違いないよ。
だから選挙戦で本音を隠したり、マスコミを脅したりして、みんなの参政権を疎外し、利害が一致する連中だけ参与させて運営しようとする。

そのための、うちの自治会も顔負けの不平等な仕組みもあるよ。
「内閣」。もっとも権力を持つこの組織は、有権者の意向(選挙)をごく間接的にしか反映しない人員で成っている。にもかかわらず、絶大な権力を持つ。ウチの「住民会」みたいなもんだ。
議会の「会派」(政党とは別な議会内でのみ機能する議員グループ)。投票は個人か政党に対して行われるものなのに、議会内では多人数の会派が有力となり、発言権・運営権を多く獲得する。もちろん会派の組成に議員の得票数は考慮されない。事実上、大きな会派が議員たちを懲罰にかける力までも持っている。これもウチの「住民会」制度と重なる。
そうでもしないと、やってらんないじゃないか、文句だけ言う民を本当に平等に扱ったら、国家(県・市)は成り立たない……民主主義になってからの為政者は、ずっとそう思ってきたに違いない。

気持ちはわかるけど、それはダメなんだよね。
ウチの自治会と国政(県政・市政)は一点で大きく異るのだから。
ウチでは住民会メンバーも役員も、全員無償で働いている。
各種議会と行政のひとたちは、給料もらっている。主として懐寂しい人民絞って薄く広く集めた税金からね。
つまり分譲地に置き換えれば、彼らは持ち主に雇われた管理会社社員だろう。
それが、自分たちの意向(政策)を押し通すのに、あれこれ細工し主人の権利を削り取るなんてもってのほかだ。主人から文句ばかり言われるのも、主従関係からすれば当然のことだ。自分の意向(政策)よりも、主人の意向に従って運営するのが、よい管理会社だろう。
それがイヤなら(私はイヤだ)立候補しないことだ。職を辞することだ。誰も止めはしない。代わりはいくらでもいる。

首長や議員は、私たちの指導者でもなければ頭領でもない。アイドルでもない。
懐寂しい私たちが雇っている管理会社社員だ。
みんながはっきりそれを認識した時、本当の議会制民主主義が現れるだろう。
現れて欲しい。

マスコミからして彼らを崇め奉っているようでは、どうにもならないよね。