第266回 70年間の平和の申し子たち

佐古和枝(在日山陰人)

千夏さん、すごいなぁ。40余年前、いまとは世間の空気も価値観もずいぶん違うのに、まさにいまどきの若者感覚!それに、40年余前の文章が今も共感をもって読めるってことにも、驚嘆です。

「単純に、反戦と、戦争につながるあらゆる行為の拒否だけを叫びたい」そう。国会に集まったあの人達から、「いても立ってもいられなくて、来ました」という言葉をよく聞きました。思想信条ではなく、誰に動員かけられたわけでもなく、どこの団体に所属しているわけでもなく、いままで政治やデモや集会などとは無縁だった人達が、自分の意志で集まった。肌で感じた「なんとなく」の危機感やザワツキ感って、大事だと思います。

妻木晩田遺跡の保存運動を始めた時も、そうでした。遺跡の初めて立った時、「スゴイ遺跡が残っていたものだ・・・」と思いました。地味な遺跡だから、だだっぴろい発掘現場を見ただけでは、何がそんなにスゴイのか、一般の方々にはわかりにくかったかもしれません。考古学の研究者のなかにも、「たいした遺跡じゃない」という人がいました(これは許せない)。だから、学問的な意義づけは、それなりに精一杯したつもりです。だけど、内心では「そんなリクツ、どうでもいいじゃない」ってイラついてました。「とにかく、この遺跡は壊してはイケナイ」とだけ叫んでいたかったです。

でも、いまなら、わかります。遺跡の大切さというのは、専門家だけで決めていいものじゃない。地元の人達にとっても、「子どもの頃から遊んだ土地でみつかった遺跡だから」「この景色が大好きだから」「なんだかわからないけど、この遺跡に感動したから」等々、いろんな理由の“大切さ”がある。どんな遺跡であれ、地元の人達が残したい守りたいと思う遺跡は、残すに値する遺跡なんです。だって、遺跡は、そこに生きている人達の心と生き方と直結するものなのだから。専門知識のない一般市民が日々の暮らしのなかから肌感覚で叫ぶ声に、専門家は真摯に耳を傾け、応える義務がある。だって、専門家の存在価値は、専門家ではない人達あってこそのものなのだから。
 
そんなことが、今回の市民の叫びと重なって思い出されました。自分が暮らす国が、どういう国であって欲しいかも、政治家だけで勝手に決めていいものじゃない。国会議員は国民が選んだとはいえ、選挙って、とりあえずいちばんマシな人・党を選ぶだけだから、投票したからといって、すべての政策に賛同したわけじゃない。この国が意に添わない方向に進みかけたら、その都度NO!と言う声をあげていくしかないですよね。
しかし、いまの政権は、史上最悪っていうほど確信犯的に暴走し、コトを決めるルールを壊し、国民の声なんて聞かない。やっぱりね、何をやっても無駄・・・と思ってしまいがちな多くの大人たちにとって、今回のSealdsの若者たちの奮闘は、希望の星だったと思います。

リクツでもシガラミでもなく、自分の肌感覚で「大切だ」と思ったことは、持続する力をもっていると思います。妻木晩田遺跡は保存が決まって16年も経つけれど、いまなお地元の人達が日々の生活に欠かせない一部のように、自然体で大切にしてくれています。だから、肌感覚で国会前や全国のあちこちに集まった人達も、一時的な熱病で終わることはないのではないかと思います。
「別に大変じゃない。授業に出て、部活して、晩ご飯たべて、路上にでる。疲れたら寝る。それだけ」
妙にマジメに授業に出席する、いまどきの大学生ですね(^_^;) 寝食忘れて肩肘張って・・・ではなく、日常生活の一部として淡々とやってる分、淡々と長持ちする可能性に期待したい。軽いノリであることへの懸念や思慮の至らなさはあるとしても、デモに参加したという経験は残るでしょう。
「70年前の戦争で亡くなった人達、被爆者の人達、沖縄で座り込んでいる人達を、こんなに近くに感じた夏はなかった。これまで一緒に声をあげてくれた人達や、私の知らないところでずっと活動していた人達のことを思うと涙がでる。今まで、こんな気持ちになったことなんて、なかった」
そんな思い、簡単には忘れないよね。

強硬採決がおこなわれてまもなく、深夜の国会前で「選挙に行こうよ!」コールが始まりました。
「日本の平和主義、民主主義は終わったという人もいるけれど、終わったなら、そんなもん、何回でも始めればいい。何度でも何度でも、歴史のなかで立ちあがってきた人がいるし、俺たちはその一つに過ぎない」とSealdsのリーダー奥田愛基くん。そう。“終わり”は、次の“始まり”なのだ。
ただ、次の選挙まで一年近く、このパワーや熱が持続するかなって、おばちゃんはチト心配しました。でも、奥田くんは、言ってくれました。
「民主主義は、制度だけでなはなく、他者と生きていく能力のことだと思う。何もしなければ劣化してしまうもの」
そう。国会は終わったけれど、原発問題、沖縄基地問題、ヘイト・スピーチ、派遣法など、この国は平和と民主主義とを揺るがす深刻な問題がテンコ盛り。することは、たくさんあるぞ。次の目標は参院選っていうだけじゃなくて、これからは国会の外にどう民主主義を広げていくかに挑戦してほしいな。

70年間続いた平和が、こういう若者たちを育てた。若者たちが絶望していないんだから、大人が先に諦めるわけにはいかないですよね。若さゆえの拙さを支えるのが大人の役目。18歳以上に選挙権が与えられたことで、有権者が260万人増えるそうです。若者たちが叫ぶ声が同じ世代に共鳴すれば、ドンデン返しも夢ではない、かも。強硬採決に加担した議員を選挙で一掃し、「こんな人数のデモで〜」と舐めたことを言った輩達に、目にモノ言わせてくれようぞ。甘いかなぁ〜(^_^;)

(安保法案に賛成した議員は、ここで確かめられます。http://democracy.minibird.jp/