第242回 スケープゴート

佐古和枝(在日山陰人)

小保方さん・・・ですね。他人事には思えなくて、三日三晩考えこんでしまいました(^_^;)

ほんと、コピペやら写真のミスやら、初歩の学生指導みたいな話にビックリ仰天でした。それ以外にも、いろいろと不備や問題点が指摘されています。なんでそういう人を採用し、リーダーに抜擢したのかなぁって思いますよね。「可愛いから」って、アホか!(-_-メ) 組織の存亡に関わる問題です。やはり彼女に期待するところがあったのでしょう。
彼女は、とても頑張り屋さんで、普通の人なら諦めてしまう状況でも、粘り強く取り組んだそうです。STAP細胞って、学界の常識を打ち破るような研究だから、それに研究者人生を賭けるのは、そうとうなリスクですよね。だから、研究者として少々未熟でも、その一徹な頑張りで難関突破してほしいと、みなが期待をかけたんじゃないのかなぁ。ものすごいプレッシャーだったと思います。

最初の記者会見を見た時、「大丈夫かなぁ」と思いました。というのは、10年ほど前、弥生時代の始まりが500年古くなったと、ある研究チームが記者発表して、世間を騒がせたでしょ。まだ「分析したら、こんなデータがでた」という段階なのに、大々的に記者発表されました。で、その直後に開かれた学会で発表して、分析資料に問題があるとか他の歴史事象と整合性がとれないなど、ボコボコに批判を浴びたんです。そして、いまだに学界での共通認識は得られていません。

学問って、自説を他の研究者に批判・検証してもらい、足りないところを補って、完成度を高めていくものです。そのキャッチボールを繰り返し、多くの研究者が納得することで、初めて「学説」なり「事実」になる。
だから、論文を発表した後の研究者達の反応こそ大切なのに、ネイチャーに採択されたというだけで、あんなに大喜びして大々的に記者発表した。おまけに、ピンク色の実験室や割烹着姿を放映させ、「若くて可愛い女性研究者」を印象づけた。理研という組織に、危うさを感じました。そして、案の定・・・でした。

旧石器の発掘捏造事件はアマチュア研究者による確信的行為だから、小保方さんとは違うのですが、一緒に仕事をしていたプロの研究者達がよく確かめもせず、ただ自分達に都合の良い“成果”を手放しで受け入れて喜んだという点、似ている気がします。周囲のプロ達の責任は重いです。

それに、今回の研究は、8人もの研究者による共同研究です。研究のプライオリティや特許権だけでなく、研究に責任を負うのも「共同」だと思うのに、どうして彼女だけに批判が集中しているんだろ。他の共同研究者は「見ていない」だの「読んでいない」と逃げの一手。それでも共同研究者?って呆れたけれど、共同研究者としての責任を追及する声は聞こえてこなかった。なんでだろ?

期待の星として過剰にもちあげて、失敗したらバッサリ切り捨てる。そのうえ、「悪意があった」だの「捏造」だのまで言われた。憶測や誤解をまじえた誹謗中傷ばかりか、外部に流れるはずのない私的メールや実験ノートがメディアに流れ、まるで犯罪の犯人捜しのような番組まで放映された。トイレまで追いかける過剰な取材で、小保方さんは全治2週間の怪我をした。彼女の弁護士が言うように、これは「集団リンチ」です。

これが50オトコなら・・・と私も思います。若くて可愛い女性だったから、ゴシップやバッシングの餌食になりやすかったのも事実でしょう。でも、それだけでは済まない問題だと思えてきました。理研側が、あの段階であれほど大々的な記者発表を開き、過剰な演出で彼女に不必要な脚光を浴びせていなければ、ここまでひどいことになっていなかったのではないか。
京都大学大学院医学研究科客員教授の本庶佑氏によると、大雑把な感覚でいうと、発表された論文の半数は、1年以内に再現性に問題があるとか実験そのものに誤りがあるとかいう理由で、誰も読まなくなるそうです(『新潮45』7月号)。な〜んだ、お仲間は大勢いるじゃないですか。ってことは、あの記者会見さえなければ、1年以内に消えていく半数のうちの1つとして静かに消えただけかもしれないですよね。

あの記者会見に、彼女をとりまく人達の思惑が現れている気がします。ようするに、不可能といわれる研究に自分で取り組むようなリスクは負いたくない。でも、もし成功したら世界的な偉業になる。だから、根性だして頑張る彼女を前面にだし、彼女の陰に隠れて糸をひく。そういう人達にとって、彼女が女性であることも可愛いことも、世間の注目を集めるためのツール以上の意味はなかったことでしょう。
結局、彼女は、研究者達の業績争い、功名心、研究費や国際特許の獲得のため、功を焦る人達に、利用され、失敗して捨てられたってことじゃないですか。彼女の落ち度を差し引いても、哀れでなりません。なにが「色香で惑わした」だ。なにが「オトコ転がしの天才」だ。

それにつけても、世間に流布した誤解などをきちんと説明し、不当な誹謗中傷やバッシングを鎮めようとしてくれる、勇気ある研究者はいないのか。
・・・と思っていたら、いましたよ。科学者の社会的使命として、毅然と立ち上がった女性研究者が!
小保方さんの友人の松田隆子さんは、この混乱した事態をなんとかせねばと、仲間を募り「STAP細胞を守る会」をたちあげて、「STAP問題を考える」(http://stapjapan.org/)を開設。そこで、人権を無視した過剰な言説にクギをさし、科学者の立場からこの問題を丁寧に整理しています。アッパレ!
 

小保方さんは、研究者として未熟なところがあったかもしれない。でも、悪意でやったことではないのだから、彼女の研究者として再起のチャンスを与えてくれる心優しい研究機関があらわれてくれないかなぁと、日々願っているサコでした。