在日伊豆半島人・中山千夏/在日山陰人・佐古和枝

チナ「ええ〜あけました」

サコ「ひえっ? それネットで流行っている挨拶かなんかですか?」

チナ「いや、私が勝手に言ってるだけで。どうもどんどん素直にメデタイと言いにくくなってねえ」

サコ「それはそうですね、汚染水はまだ垂れ流し、小児がんの報告もちらほら、被災者のみなさんにはまだまだオメデトウとは言いにくい」

チナ「メデタサもひとによりけりおらが春」

サコ「お、イッチャで来ましたね」

チナ「と言いつつのんきなお話で今年の幕を開けようというわけですが」

サコ「はいはい」


いざ、出発!!

チナ「昨年末は、ひょんなことから銀座を散歩しちゃいましたね」

サコ「ええ、26日に新宿紀伊國屋ホールで恒例の『六輔年忘れ』がありました」

チナ「私は例年の司会でお手伝いに、伊豆半島を出て上京しまして」

サコ「私は永さん、千夏さんほかに、まとめて会えるので、京都から上京しまして」

チナ「そうそう、サコちゃんは在日山陰人だけど、京都に住んでいるわけよね」

サコ「そうなんです」

チナ「顔を合わせるのはひさびさ。ちょうどいいから、このコラムの忘年会を兼ねて、東京見物でもやりましょうってことになって。おりもおり、都知事不在で空気もマシかと」

サコ「あはははは。で、オノボリさんとしては東京といえば銀座でしょうってわけで」

チナ「銀座といえば私の幼少のミギリのホームグラウンドではないですか」

サコ「これでテーマは決まり! 『歴史散歩・古代千夏の足跡をたどって』!」

チナ「たはははは」

 

チナ「催行は翌日。おんな組の事務局をほとんどひとりで切り回し、このサイトも作ってくれている未来ちゃんも誘いました。未来ちゃんは東京のハズレ在住なので、そう遠くない。あ、サコちゃんは未来ちゃんに会うのは初めてだったのよね」

サコ「そうなんです。もう10年も連載コラムを続けているのに、未来子編集長とはメールのやりとりばかりで。やっと会えて嬉しかったです」

チナ「加えて、鎌倉から出てきてホールに出演していたオオタスセリちゃんも、誘っちゃいました」

サコ「今回のステージも面白かった! 毎年、こうして年末に大笑いさせてもらって、幸せな心地で一年の締めくくりをさせてもらっています。そして、めでたい新年のスタートのために、千夏さんの足跡の発掘調査へ、いざ!」


取り壊し予定の一角


こんなところにもオリンピックの影響が…

チナ「まずは銀座5丁目から歌舞伎座へ。途中、閉まってるお店が一群あって、オリンピックのために取り壊すことになった、と悔しそうな貼り紙がありましたね」

サコ「あんなところまで一新するんですねえ。新しいビルの一角に、ああいう古びたお店の並びがあるっていう方が、趣きがあるのになぁ」

チナ「外国人が歌舞伎座を見に来ると見込んでのことかしらん」

サコ「歌舞伎座もお休みでした」

チナ「新築になってから初めて見た。まあ、感じは私が小さい頃と、そんなに変わってない気がしたなあ。周囲はずいぶん変わったけどね。小学生の頃、歌舞伎座の横の旅館に住んでたんだけど、それもとっくになくなった」

サコ「なんでまた旅館に?」

チナ「菊田一夫さんの芝居にちょっと出て、すぐ大阪の家へ戻るつもりだったから。そうしたら、芝居がロングランになって、旅館に一年住むことになっちゃった。学校も銀座に転校させられてね」


新しくなった歌舞伎座

チナ「歌舞伎座の真ん前に赤穂歯科ってのがあって、その娘ていちゃんが同級生。中学もいっしょでずっと親友。電話して上がり込んでお茶ごちそうになって、いっしょに歩いてくれることになった」

サコ「一〇〇年近くも代々あそこに住んでらっしゃるんですってね。美人で、きさくで、楽しい方でした」

チナ「ていちゃんに会うといつも、浅草あたりの江戸っ子とはまた違う、江戸人独特の言葉や態度だなあ、と思う。あの近辺は同級生だらけなの」

サコ「さすが地元民、オシャレな銀座のビル街を、まるでサンダル履きの近所歩き感覚で案内してくださるのが、すごいなぁ〜と。通学路も千夏さんより詳しく覚えてらっしゃいましたね。」

チナ「ほんと、付き合ってもらって感謝」


歌舞伎座の裏に銀座区民館が…

サコ「通学路の横丁に、あのルパンがあったのには驚きました。太宰治が通っていたので有名になった酒場と聞いてましたが、まだあるんですね」

チナ「私もびっくり。あそこにはおとなになってから一回だけ、野坂昭如さんに案内されて行ったことがある。でも酔っぱらってたし、夜中だし、地理感ないし、まさか子どものころの通学路にあったとは、思いもしなかったあ」

サコ「飲み屋の路地を通ったり、デパートの中をショートカットしたり、いかにも銀座っ子の通学路。華やかなビル街のひと筋裏道に、あんなレトロな雰囲気の路地やお店が残っているなんて、ビックリでした」


こんな路地に「ルパン」が…

チナ「で、15分も歩いたところが、我らが泰明小学校です」

サコ「枯れたツタの絡んだ古風な建物がビルの間に見えた時、あそこだけ時間が止まっているみたいだと思いましたよ。スセリちゃんが、コワイ!と叫んでました」

チナ「あははは。運動場は昔からコンクリ。土の運動場しか見たことなかった私には、やたらおしゃれに見えたなあ」

サコ「おしゃれですよ。あの建物は東京都選定歴史的建造物と経産省近代産業遺産に指定されているという看板がありました。関東大震災で木造校舎が焼失したので、昭和4年に再建されたとのこと。その時代に、アーチ型の塀とか半円形の窓とか円形に張り出した講堂なんて、とてもハイカラなデザインだったことでしょう。さすが銀座の小学校!」


東京都選定歴史的建造物の泰明小学校

チナ「入り口の石に彫ってある卒業生ふたりは文士(島崎藤村、北村透谷)だけれど、けっこう、名優が出てるのよ。殿山泰司さん、加藤武さんが大先輩。日活映画のスターだった和泉雅子は一年上で、弟が私と同学年。どなたものちに親しくなった。みんないかにも銀座っ子だよ」

サコ「卒業生をネットで調べてみたら、近衛文麿、金子光晴、池田彌三郎博士、朝丘雪路さん、河原崎国太郎さん、そして中山千夏さん!など、錚々たる顔ぶれです。こんな都心部で今も残っているというのは、歴史の重みを感じさせますね」

チナ「何度か生徒不足を理由に廃校の危機があって、その度に保存運動が起きて、助かってきた。こうなるともう、潰すの、惜しいよね」


島崎藤村、北村透谷の名前が彫ってある

チナ「学校が終わると、ていちゃんたちは銀座方向へ帰り、私は反対方向、帝国ホテルのほうへ。すぐに芸術座の入り口があって、自分の顔もある看板見ながら、右に折れたら、楽屋口。ほぼ一年間、このコースを行ったり来たりしてたのよねえ」

サコ「芸術座、なくなっちゃったんですね」

チナ「そう。なんだかコジャレた貸しホールみたいなのになって、つまんなくなったね」


芸術座のあったところ


この辺に楽屋口があったんだけど…

チナ「近くには、当時から俳優たちもよく通っていた飲食店が並ぶ通りがあった。今も面影が残っていて、なつかしい。真昼の酒抜き忘年会に選んだ『慶楽』は、その一軒。ここで初めて冷やし中華とラー油を知ったんじゃなかったかしら」

サコ「知らなければ通り過ぎてしまいそうな目立たないお店なのに、3階までお客さんで一杯でした。みんな、よく知ってるんですね。あの「牛肉の牡蠣油かけごはん」って初めてでしたが、おいしかった」

チナ「おいしかったし、楽しかったね。これでまた一年、張り切ってコラムやらウンドウごっこやら、やっちゃいましょっ」

サコ「やっちゃいます、です。チナさんに、ついて行きます、どこまでも」

チナ「そうそう、ここで聞いたスセリちゃんの“ 女芸人の話”は、年頭特集第二弾として、次回に載せます」

二人「どうぞ、お楽しみにっ」


真昼の酒抜き忘年会場の『慶楽』