第191回 ■丸木舟の島へ■

中山千夏(在日伊豆半島人)

丸木舟!
聞くだに楽しい企画だね!

丸木舟といえば…

南の空のはて 波のはなさく島に
浮世を遠くみて 恋を語るふたりよ
こころも丸木舟に

これ、〈丸木舟〉という歌の一番。

驚くなかれ、レッキとした日本民謡なのよ。なにしろ東京都の無形文化財に指定されているんだから、立派にレッキでしょ。あ、今の都知事は関係ない、40年ぐらい昔の都知事の仕事。
第二次世界大戦後、沖縄同様、アメリカ合州国に占領されていたボニン島こと小笠原諸島は、1968年に日本に返還された。その後、東京都が島の民芸を調査、採集して、歌い継がれていたいくつかの歌を民謡として文化財に指定した。そのうちの一曲がこれなの。
2番はこう。

ザボンの色の月が あのヤシの葉にのぼるころ
どじんの恋の歌に 胸は踊るふたりよ
こころも丸木舟に

丸木舟が出てくる日本民謡は、これだけじゃないかなあ。それにザボン、ヤシ、おっとっと、今は差別用語の「どじん」もね。とにかく別の民謡の題見ても、〈レモン林〉だったりするんだから、感動的。最後の3番はこう。

船はなみにまかせ この身は恋にささげ
つきせぬ想い かたるは夢のふたりよ
こころも丸木舟に

言葉が独特でしょ。「浮世を遠くみて」とか「こころも丸木舟に」とか、わからなくはないけど、どこか外国人の日本語みたい。曲も長調で明るく、まるでおだやかなサンゴ礁を丸木舟の櫂で漕いでゆくようなリズム。
独特で魅力的な小笠原の歴史が、こうした民謡ににじみ出ている。



外国の地図だと小笠原はBonin。島で最も古いのはアメリカ出身のセーボレー家。ナサニエルという名の、見た目まるっきり白人の日本人や、ハワイ人そのもののウォーリーという名の日本人が、硫黄島を故郷とする赤間さんや、静岡生まれで父島を故郷とする森下さんなど、これは見るからに和人の島民たちと、共に暮らす島。
日本は単一民族の国である、と主張する人たちを、歴史ばかりか現状の重みであざ笑う島。
地理的にも歴史的にも、日本というよりミクロネシアが近い東京都の島。

東洋のガラパゴスと呼ばれる自然もさることながら、この歴史と文化に魅了されて、毎年の夏、通うようになっちゃったのよね。

はい、今年も行ってきますっ。
しかし今年は特別だ。去年、世界遺産に登録されてから、島も定期船おがさわら丸もごったがえしているらしい。
宿、私しか取れなくて、今年は友だちの同行なし。久々のひとり旅。
長年のリピーターのなかには、混雑や物価上昇に嫌気が差して、リタイアした友人もある。
今年は世界遺産の影響を視察するのも大きな目的。
どうなっているのかなあ、場合によっては、私も今後、行きにくくなるかも。
どきどきの船出は9日です。
おみやげ話、待っててね!



返還40周年記念パレード 2008年(撮影千夏)