第123回 ■単純に魚の話■

中山千夏(在日伊豆半島人)

>シロワニっておとなしいサメなんですってね。

そうなの。うんとお近づきにならせてもらったけど、襲われたことないし、襲われるの見たことないし、聞いたこともない。
でも、でも、この顔見ると、びびるよ。


小笠原のシロワニ

古代人もきっとびびった。
だけど魚ってほんとにいろいろ。
同じ魚類でも、これ、見て。

伊豆海洋公園のダンゴウオ

特大の成魚でも1センチぐらいかな。
しかもそっくりな海藻に止まっている。
私なんぞの肉眼では、なかなか見えない。
撮影もマクロばっちりの上等デジカメのおかげ。
いくら古代人の眼がよくても、海中でこれに気づくことはなかったんじゃないかしらん。浅瀬にいるわけじゃないしね。古代人がいかに有能でも、素潜りでみつけるのは難しかったのではないか。
こういうチビ魚は、やっぱり、ゆっくり潜っていられるスクーバダイビングの技術開発で、やっと人間に知られたんだと思う。

サメ、おいしいカンパチの類、それに洋上でもよく見えるイルカやクジラ(これらは哺乳類だけど)、そういうものは、きっと古代人と親しかっただろうと思う。


小笠原のカンパチの群


小笠原のイルカ


小笠原のマッコウクジラ

ちなみに、どうして洋上クジラの写真って、ニョキッっと尻尾立ててるのが多いのか、今年、初めてクジラを見て納得しました。尻尾がないと、ほとんどただの流木に見えるの。尻尾出したとこ、撮れなかったので、私の写真は流木ばかりでした、たはははは。
それにしてもクジラは大きい。さほど大型ではない、とのことだったけれど、大きい。マッコウでこれなのだから、最大のシロナガスなどは、よほど衝撃的だろう。

ところで、私が見た魚類中、ずば抜けて個性的な風貌の持ち主といえば、これ。


伊豆海洋公園のコブダイ

一時、佐渡のダイビングスポットで餌付けされていた通称「弁慶」で、一躍、ダイバーの人気を集めた魚類。
図鑑で初めて見た時は、「こんな生き物いるのお」と仰天したものです。いたのですね。最初は佐渡で、最近はホームグラウンドの伊豆海洋公園でしょっちゅう会ってます。
でかいのはゆうに1m。ベラ類にはよくある特徴なんだけど、成長するにしたがって、おでこが出てくる。その下にまんまる目玉。厚い唇。おまけに好奇心が強く、ひとなつこいので、出会うと思わず目尻が下がる。
1760年ごろ成立した『衆鱗図』にもちゃんと図がある。この図譜は平賀源内が総指揮して作った、世界的にも最高峰の「博物学的魚類図鑑」だそうです(荒俣宏著『世界大博物図鑑』による)。少なくとも江戸時代のひとにはよく知られていた魚らしい。
古代人も知っていたかな。もし私が古代人で、この魚を見知っていたとしたら、きっと絵にしたと思うな。
こういう魚の絵、出土していませんか、サコせんせ?