第103回 ■ハコフグ・ハグの話 1■

中山千夏(在日伊豆半島人)

「は〜い、おらっちハコフグのハグよ。生まれたばっかり。
伊豆半島は城ケ崎海岸のとある穴ぼこに住んでるんだよ。ほらね。
え? 見えないって?
うふん、2センチもないからね、もっと寄って、寄って」

「うふ、かわいいしょ。
この写真、おんな組の
伊豆半島人が撮って
くれたのよ」

「この人だ。
16年ぐらい前から、
しょっちゅうこの海に
くるんだって。
人間のくせに、かわってるね。
8年ぐらい前からは、
デジカメとかいうの持って
パチパチおらっちを
写してるんだって」

「10月には新品のカメラ持って
きたよ。
うれしそうだったね〜。
前のよりうんと性能が
いいらしい。

おれっちよりちっちゃいのも、
よく写るって騒いでた。
なるほど写真見ると、すごいぞ」

「これ見て。手じゃないよ、
矢印の先をよおく見て。
ゴミじゃないよ。
これ、細長い魚の赤ちゃんよ。
ヨウジウオの仲間」

「上が尻尾。丸いの。
顔はとんがっててね。
ははは、おとなと同じ形だ。
伊豆半島人、白内障の手術して
よく見えるようになった
らしいけど、それでもこれは、
見えないまんま、あてずっぽうで
撮ったんだって。
ちゃんと写ってたって当人が
驚いてる。
大きい声じゃ言えないけど、
今のカメラって誰がどう撮っても
ちゃんと写るんじゃないの?
うふふ」

「このクマノミくんは、
おらっちと同じくらいの
大きさだけどな。
胸ビレがシースルーで
おしゃれだよね。
次回は、前のカメラで撮った、
今年の秋の写真見せながら
お話するね」