第89回 ■考古学界まっくろけ■

中山千夏(在日伊豆半島人)

共通の友人、永遠の考古学少年みっちゃんこと岡村道雄さんが、奈良文化財研究所を定年退官したね。
感無量、私と同じネズミ年なのだ。私はオツトメしてないから定年もないけど。

文化庁記念物課調査官の長だった岡村さんと知り合ったのは、1987年あたり。仕事のこと、よくは知らないけど、遺跡保護に熱心に尽力してきた。私に接近してきたのも、世間の関心を遺跡に向けるために「著名人」を使うテの一環だったんだ。(酒飲むばかりで、あまり役立たなかったと思うよ(;^_^A)
むきばんだの保存を決めたのも岡村さんだったね。縄文人を自称する考古学者で、著書も多い。
痛かったのは宮城県の「旧石器捏造事件」だった。「神の手」で有名になったよね。そう呼ばれていた地元の一研究者が、実は長年にわたって出土品を捏造していたという、あれ。発覚は2000年、毎日新聞のスクープだった。恩師・芹沢長介(故人)がかかわっていたこともあって、岡村さんはその遺跡に肩入れしていた。捏造を事実と信じて、著書にも多く引用していたために、岡村さんはひどい苦境に立たされた。風当たりが全部、彼にきた。友人としては心配したよね、まさかの行動するんじゃないかって。ああ見えて繊細だもんね。
でも、ちょっと大病はしたけれど、今はもうすっかり立ち直ってる。パーティのスピーチでも、事件を自分から口にして、騙されたとはいえ、ウソ情報を流してしまったことへの深い反省と、だから、この事件を現状のようにウヤムヤにしてはいけない、考古学への信頼を取り戻すため、しっかり総括し伝承するのが今後の私の義務だ、と言ってた。そう言えるまでに回復してた。パーティで配られた自著の冊子にも、事件を大きくとりあげて、謝罪と共に「この事件を長く将来に伝えることが私の責務だと考え続けている」と書いている。エライと思ったよ。

そう、退官祝いの盛大なパーティがあったんだ。4月26日。上野の精養軒。関東地区だそうで、佐古ちゃんほか西の知り合いはいなかったね。てか、知り合い、3人ほどしかいなかった。エライ人より同僚や後輩が多くて、途中から本人も司会も大いに酔っぱらっちゃうという、みっちゃんらしい会だった。
それはいいんだけど、まあ、しかし、男ばっかり! 9割以上だね。スーツ多いから、真っ黒。すごいね。久しぶりに見たね、あんなに男ばっかりの群。岡村さんの妻(初めて会った。素朴な明るい、いい感じのひとだった)をうんと大事に取り立てて演出してあったけど、そんなじゃ間に合わないんだ、男、男、男で。
ううううむ、なにしろ官界と考古学界だものね。

前にみっちゃんから、現役の考古学研究者と呼べる女性は5人だけだ、と聞いたことがある。そのひとりが佐古せんせ。
うわ〜、サコちゃん、すごい環境で仕事してるんだ、と改めて思った春の上野でありました。
なんとかせにゃねえ、この体質。「神の手」事件とも深いところで関係あると思うよ。ネックはなんなのだ?