あんなこんなそんなおんな・・・・・昔昔のその昔 第7回

■なんともはや■

中山千夏(在日伊豆半島人)

ちょい補足すると、野生のチンパンジーは同種殺しをする、という発見が何年か前にあって、ちょっとした騒ぎになりましたよね。それまで、動物はそういうことはしない、と見ていた動物ファンは、ずいぶんがっかりしたものだった。私もその一人。
でも、よく詳細を知ってみると、やっぱりそれは人間の同種殺しとは違っていたのね。たとえばチンパンの群れは、オスのボスに率いられる一夫多妻型社会なわけだけど、その群れがほかのオスに乗っ取られた時、新ボスが乳児を殺してまわることがある。
学者の説明によると、この殺しにはこんな理由があるの。メスは授乳している間、次の妊娠をしないんだって。で、乗っ取られたばかりの群れの乳児は、ほぼ確実に前ボスの子でしょ。一日も早くたくさん自分の子孫を残したい、という新ボス(の遺伝子)からすると、メスが他人の子を養ってばかりいて自分の子を妊娠してくれないのは、えらく不経済なわけ。だから乳児を殺す。つまりこれは遺伝子の繁殖戦略に操られた新ボスの、やむにやまれぬ本能から出ていることなのね。
今、詳細を思い出せないけれど、メスによるよその子殺しも発見されていて、これもそれなりの本能的な説明がつくものだった。もちろん彼らのどんな殺戮行為も、本能のプレーキのおかげで、群れや種を絶滅させるまでには及ばない。
それにしても、同種殺しという悲惨な解決方法をとることは、チンパンジーでしか発見されていないんじゃないかな。そしてチンパンジーが系統的に最も人間に近い、というのはとても興味深いことじゃないですか?
この発見以来、私は、人類の同種殺しをこう考えるようになった。近縁の類人猿であるチンパンジーの同種殺しと同根の、知性のカケラも無い本能的蛮行でありながら、しかも、本能のタガはがたがたに外れた無軌道な蛮行である、と。まったく、なんともはや、ですなあ。