あんなこんなそんなおんな・・・・・昔昔のその昔 第39回

■えらいこってすな〜■

中山千夏(在日伊豆半島人)

人間は、えらいこってすな〜。つい関西弁になりまっせ〜。話が深刻すぎて、東京弁ではやっとられん。
が、気を取り直して。正調にもどして、と。

古代をやや離れて、性の森に迷い込んでるのよ、「らしさ」の話以来。これ考えれば考えるほど、たいへん。
このごろジェンダーといっているのは、自然な性差ではない、人間が作り上げた性差のことでしょ。社会的性差とも言うらしい。
しかしさ、性差にせよ性格にせよなんにせよ、人間に、人工的でない部分なんかあるのかな? 社会が豊かになって栄養価の高いものを食べられるようになると、カラダ、変わるよね。体格よくなる。性的成熟も早くなる。これは経済大国では近年、目立ってスピードアップしているそうだ。夜なお明るい都会の電光が、人間の性的成熟を早めている、とい学説を読んだことがある。
となると、カラダそのものさえ、天然自然だとは言えないでしょ。まして、感覚や感情や考えや行動となったら、まるまる社会的に作られていると言っても言い過ぎじゃないと思うよ。

だからこそ、たとえば男性の暴力傾向、競争指向を、それが男ってもんじゃぁ〜、で片づけちゃいかんのよ。あんたは社会的にそう作られてんの。それでいいの? ってことだよね。
うちらの経済依存体質、売春傾向も同じことだと思う。戦後、♪こおんな〜おんなに〜だ〜れ〜がした〜♪という哀しい街娼の歌「星の流れに」がヒットしたけど(ちなみにこれ、私の愛唱歌)、今、亭主丈夫で留守がよい、と呵々大笑する女たちも、売春して何が悪い、と胸を張る女たちも、実はこの歌のまんまだと思う。
答えは、社会がした、のだ。性差別社会がね。

そういえば子役のころ、よく聞いた演劇界のセオリーのひとつに、こんなのあったな。男には兵隊、女には売春婦を演らせておけば、まずダイコンはいない、って。そして、当時はジェンダーみたいな言葉も概念もないから、おとなたちはそれを男女の自然な本質と見て、疑いもしていなかったよ。「やっぱり性の本質の役をやると、誰でも名優なんだなあ」みたいなことでさ。
この、もはや血肉にまで染み込んじゃってる戦争体質、売春体質、実は自然でもなんでもない、作られた体質、これなんとかせにゃいかんのと違う? つまり性差別社会を根本的に変えにゃいかんのと違う? 

そこで問題は男なんよねー。女の方は少なくとも差別され抑圧されるのはいやだから、なんとかしようとし始めた。だけど大半の男は、なんとかせんでも痛痒ないらしい。というより、この社会では、多数男性もウエの男たちから差別し抑圧されていて、そこでなんとか生き抜くためには、女性を差別し抑圧することが、精神的にも物理的にも必要なんよ。
こりゃどうにもならんわ〜と思い切った女たちが、レズビアンや女性だけの共生に希望を見いだすのも、もっともだなあ。はあ〜〜。

てなふうに考えると、えらいこってすなー、となっちゃうわけ。ま、せめて、言うだけのことは言いまくって、生きてくことにしましょうぜ、ご同輩。