あんなこんなそんなおんな・・・・・昔昔のその昔 第37

■「らしさ」の中味■

中山千夏(在日伊豆半島人)

話は戻りますが、「武器を持っているからといって、男とは限らない」ということについて。

おもしろいね。これって、「女らしさ・男らしさ」の問題でしょ。そして、それは、私がウーマンリブを始めたころからある、いや、たぶんもっと前からある、性差別にまつわる中心的な課題でしょ。今はジェンダーなんて言ってる。
で、考えてみると、考古学は男女にかぎらず、「らしさ」との付き合いが、とても難しい学問なんじゃないのかな。 サコちゃんから漏れ聞くところでは。
ある地層からあるモノが出た。これは事実だ。それはいったいなんなのか、となるともう、事実ではすまない。「らしい」の世界に入っていく。いろいろなほかの裏付けを集めて、そのモノがなにかである「らしい」と解釈する。それは科学的じゃない、と嫌って、「ココからコレが出た」というところまでしかやっちゃいかん、と言う学者もいると、たしかサコちゃんから聞いた。
まあ、解釈のない学問なんかありえないと思うから(あっても面白くないんじゃないの?)、それはいい。問題は、裏付けの部分だよね。裏付けがどのくらいしっかりしているか。
その裏付けのところに「女らしさ・男らしさ」が出てくると、とても危険だ、ということだよね。「らしさ」は時と場所によって、変化する。だから現代の「女らしさ」を古代に当てはめて、モノを考えちゃいけないよ、ってことだな。古代の「女らしさ」をつぶさに研究したうえで、それを遺物や遺跡の解釈に使うのなら、いいんだけれどね。

『古事記』で見ると、戦う女、闘争的な女は珍しくない。女神天照(アマテルと私は呼んでる)などは、はっきり武装して敵を迎えるよ。髪もミズラに結ってね。ミズラは男性の髪形、とされているから、これも「男装した」と解釈されている。まあ、そうなんだろうけれど、そうは書いてない。だから、女も武器を持って戦うのが古代では珍しくなくて、その際には戦いに向いた髪形をした、というだけかもしれないよね。
今、多くの女が短髪でしょ。私もそうだけど。これは基本的に男性の髪形とされていたけれど、今、私たちは男装しているわけじゃないよね。便利で働きやすい髪形を選びとることで、「女らしさ(=長髪、だった)」を変化させている、ということでしょ。アマテルのミズラも「男装」というほどのことではないのかもしれない。

ほかにも、武装していたと明記されてはいないけれど、女兵士みたいなのや、戦闘したに違いないお姫さんが何人もいる。
九州にいた息長帯(オキナガタラシ)さんなどは、水軍を率いて朝鮮半島へ、次に大和へ、侵略戦争をしかけている。その戦記は、初代神武の大和侵略戦記に次いで、はなばなしいもんだよね。当然、彼女自身もりっぱな武器を持ち、鎧兜に身を固めていたんじゃないのかな。
そして彼女を埋葬する時には、大和制服記念の武器、なんてのも、いっしょに入れたんじゃないかしらん。

『古事記』時代(712年ころ)は、それ以前に較べれば、「女らしさ」の固定が厳しくなっていた、と思う。それでも、こういうお話が記録されているんだもの。弥生時代やそれ以前となると、武器を持つ女なんか、珍しくなかったね、きっと。
ただし、言っておきますが、女であれ男であれ、武力でことを解決しようとしてはいけませんっ、侵略戦争するなどもってのほかですっ。はい、念のため。