あんなこんなそんなおんな・・・・・昔昔のその昔 第35回

■にこやか・と・戦い■

中山千夏(在日伊豆半島人)

ううむ、そうですかあ。サコちゃんのお話の最後に感無量。

「武器をもっていたら男性だというのは、伝統的な(つまり古い)考え方。あまり決めつけない方がいい」と、にこやかに指摘して、カッコよかった!

「にこやか」にきましたか。しかもアメリカ合州国の考古学者がねえ。
あちらのデキる女は、愛想が悪い、という印象がある。いつだってにこりともしないでものを言い、それが他人の間違いを指摘する時なんかだと、いっそうきりりとした顔で言う。
ほんとは、べつにいいんだよね、それで。男の場合なら、そんな人ふつうでしょ。で、特に愛想が悪いなあ、とは感じないのよね、こっちも。
だけど我々はにこやかに言う。もちろん、気のおけない家族や友人には違います。しょっちゅう鬼ヅラ。
でも一端、社会を意識する相手に対するとなると、にこやか。指摘も抗議も叱責も反論も、とにかくにこやかにする。
サコちゃん、にこやか。私、にこやか。キョンちゃん、もうもう、にこやか。驚くなかれ、スゴちゃんでさえ、にこやかだ。

よくいえば愛嬌がある、悪く言えば媚びがあるこの習性は、権力者かつ筋力者である男性に対して、権力もなく武器もなしにゲリラ戦を戦ってきた女性の、長い歴史に培われたものだと思うよ。
だって、まともに正面からいったら、たちまち袋叩きじゃん。男社会、一丸となって夢中で反撃してくるからね。狭くは男家長の攻撃を避けて生きるために、広くは男社会の攻撃を避けて地位や仕事を確保するために、女のにこやか戦術は発達してきたんだな。

いやらしい、正々堂々と戦え、という批判の声もある。
でも、どうなのかね。互角ならいいけど。
現状は、「女はなぜにこやかなんだろ、俺らはなぜ素っ気ないんだろ、顔面筋肉の仕組みは同じなのにな」と疑問を持つことすらない男たちがごちゃまんといるんだよ。男が女に対して、にこりともせず、素っ気なく、偉そうに、尊大に口をきいても、無事に生きていけるからね、まだそういう社会だから、彼らはそんなこと考えないのよ。困れば考えるようになるでしょ、男女のにこり差について。

ま、昔にくらべれば増えた。にこやかな男性が。少なくとも社会的に自分よりエライ女に対しては、にこやかにものを言えるようになってる。やればできるじゃん。
私はこっちのほうがいいと思うな。つまり、女が男なみにきりきりもの言う、それで男女の態度に性差がなくなる、というのよりも、男が女なみににこやかにものを言う、それで性差がなくなる、というのがいいと思う。
だってやっぱりにこやか戦術でしょう、憲法第9条で生きていくにはね。