あんなこんなそんなおんな・・・・・昔昔のその昔 第29回

■棄てられた子■

中山千夏(在日伊豆半島人)

サコせんせー、お大事にー。
読者のみなさんも、この季節、つい冷えて風邪をひきがち。気をつけてねー。

ところで。
病気については、『古事記』なんかより、遺跡の人骨のほうが、多くを語ってますね。
ただ、「9号さん」から、こんな話を思い出した。

『古事記』の冒頭部分、女神イザナミと男神イザナキが交合して「国土」を生みます。
事前にこんな儀式をする。神聖な柱の周りを逆方向に廻って、出会ったところで、こう声を掛け合った。
女神「あなにやしえをとこを」(ああらまあ、いい男だこと!)
男神「あなにやしえをとめを」(ああらまあ、いい女だこと!)
と、そこで男神が文句を言うのね。
「女人先言不良」(女の人が先に言うのは、良くないぞ)と。
でもまあ、性交してみた。すると「水蛭子」が生まれたので、葦舟に乗せて流し棄てた。次に「淡島」が生まれたので、これも子のうちには入れなかった・・・。

この後、二人は天神に相談にいきます。天神は「やっぱり女が先に言ったのがよくなかった。儀式をやりなおせ」とご託宣。で、やりなおして性交したところ、次々と立派な島々が生まれましたとさ。
という、ワタクシ的には「なんちゃってー」なお話。でもね、一見、不愉快な話だけれど、よく分析すると、この男性優先は、儒教の真似をしたがった当時の大和朝廷のインテリ男性たちの付け焼き刃だとわかる。ほんとは『古事記』神話の男女は、うんと対等です。
それを話すと長くなるので、今は置きますが。

問題は「水蛭子」。ヒルコと読まれてきています。この名前で、蛭(ヒル)のようにぐにゃぐにゃして歩くことも手でなにかすることもできない子、を表しているのね。
これは、重度の脳性マヒ症状を示唆している、と見えます。だから棄てた、というわけですから、大和朝廷の福祉感覚は、9号さんの社会より、劣っていたのかもしれません。

ちなみに、この名前もこじつけです。ヒルコは本来、「日の子」を表す言葉なので、もとは立派な太陽神だったはず。「淡島」も、淡くはかない島、ではなくて、「粟島」つまり穀物がよく実る豊穣の島だったはず。
結局、なにか政治的な事情で、ヒルコとアハシマは、大和朝廷の国生み物語に邪魔だった。だから、その名を不吉に解釈していった。同時に男性優先の最新思想も加わった。
そうやって、本来、男女神が単純に太陽神(ヒルコ)と豊穣の島(アハシマ)を生む物語が、『古事記』流の性差別的、障害者差別的な国生み物語へと、変貌していったのだろう。
私はそう見ています。